化學工学研究所の博士、胡淑文教授による「黄金比レシピがカモミールの抗炎症能力をより向上させる」という講演の中で、私たちは西洋の化学実験データの視点から、黄金比レシピが精油の働きを助け、効果をより持続させることを学びました。それに加え、東洋の哲学から実験データを読み解くことで、精油の黄金比レシピに隠された秘密を紐解くことができます。
国際IFAアロマセラピー校長の沈莉莎氏は、2022年9月28日に開催された樸真オンラインセミナー『2023 科学データから読み解くエモーショナル・ヒーリング』にて、化学成分の観点から黄金比レシピの相互補完性がいかにより良い相乗効果を生み出すかを深く解説しました。シングル精油から出発し、効能を広げ作用を高めることで、心地よい香りと確かな効果を両立させ、かつ刺激の少ない黄金比レシピへと一歩ずつ調香していくプロセスを紹介。さらに、東洋文化の中医学における「君臣佐使(くんしんさし)」の論理を伝授し、効果的でありながら多くの人に適したレシピの組み立て方を公開しました。

▎Part⓵ レシピの黄金比
真の黄金比レシピとは、塗布した瞬間に劇的な変化が現れるものだけを指すわけではありません。なぜなら、即座に現れる強烈な効果は往々にして一時的なものだからです。アロマセラピストが目指すのは、効果があるだけでなく、全体の修復作用を長持ちさせ、持続させるレシピです。そして何より重要なのは、その香りが使用者の心身に良い変化をもたらし、素晴らしい印象と記憶を刻むことです。

オレガノ精油(ワイルドマジョラム)については、皆様もよくご存知かと思います。この精油は非常に優れた抗菌・抗酸化作用を持ち、同時に肌の再生を促す働きがあります。20世紀初頭、ヨーロッパの貴族たちの間で一世を風靡した「ハンガリーウォーター」にも、細胞の再生を加速させ、貴族たちの肌を若々しく保つためにオレガノ精油が配合されていました。
しかし、オレガノ精油を使ったことがある方なら、原液の精油がたった一滴肌に触れただけでも、非常に強い刺激や痛みを感じることをご存知でしょう。では、オレガノ精油の恩恵を享受しつつ、その刺激を抑えるにはどうすればよいか。そこで「真正ラベンダー」を組み合わせるのです。
この二つの精油の長所は、見事に互完し合います。オレガノ精油の刺激成分は、ロータス図の左下に位置するカルバクロールとチモールに集中しています。対して真正ラベンダーのロータス図右上には、非常に高い割合でリナロールと酢酸リナリルが含まれています。これら二つの成分は穏やかな抗菌作用を持つだけでなく、リラックス効果があり、肌に対して非常に優しく働きます。

オレガノのロータス図 / 出典:『中醫芳療百科』沈莉莎著

真正ラベンダーのロータス図 / 出典:『中醫芳療百科』沈莉莎著
真正ラベンダーがオレガノの刺激成分を和らげることで、これら二つの精油を合わせると、抗菌効果が損なわれるどころか相乗効果が生まれ、よりマイルドに使用できるようになります。同時に、穏やかなリナロールと酢酸リナリルが、オレガノの身体への働きかけを長持ちさせ、抗菌・抗酸化の効能を持続させます。それぞれに素晴らしい利点がありますが、合わさることで単なる「足し算」ではなく、強力な「シナジー(相乗効果)」を生み出すのです。
経絡の観点から見ても、これら二つの精油にはそれぞれの長所があり、異なる体質の悩みを解決してくれます。陰虚体質、陽虚体質、さらには痰湿体質の方であっても、このブレンド精油を活用できます。年齢に関しては、3歳未満の乳幼児を除けば、3歳から99歳まで幅広い層にお使いいただけるレシピです。
このレシピには、ミクロな実験を通じて精油成分の人体への有用性を証明する「西洋科学の実証精神」が込められています。ブレンド精油には多種多様な成分が含まれているため、その効能はより柔軟に働きます。同時に、東洋哲学の「人間中心」の思考も取り入れられています。それは、生体本来の機能を損なうことなく、植物の精華(エッセンス)を用いて、身体が本来備えている自己治癒力や再生機能を呼び覚まそうとするアプローチです。

▎Part⓶ 「君臣佐使」という東洋の哲思
自己治癒や再生に用いられる精華の多くは植物由来のものです。中医学では、植物精華が持つ特殊な刺激を通じて身体の自己治癒機能を活性化させ、同時に身体を最適な「中庸(バランスが取れた状態)」へと整えていきます。
西洋の実験精神、中医学の人間中心の思考モデル、そして香りが脳の感情に与える影響を組み合わせることで、一人ひとりに寄り添った、優しくも力強いブレンド精油を調香することができます。
20年以上の臨床経験の中で私たちが導き出した答えは、中医学の「君臣佐使」の論理に従えば、効果的で、かつ多くの人に適応するレシピを調香できるということです。

▎Part⓷優れた黄金比レシピを設計する方法
スイートオレンジ精油を例に挙げてみましょう。その甘酸っぱい香りは多くの人に好まれ、気分を明るくし、食欲を増進させますが、抗微生物・抗菌効果はほとんど期待できません。そのため、ブレンド精油におけるスイートオレンジの役割は、主に「香り」と「感情の癒やし」にあります。ここに抗菌効果を持たせたい場合は、真正ラベンダーを加えます。真正ラベンダーには淡い花香と力強い草の香りがあり、リラックス、安眠、咳を鎮める抗菌効果があり、呼吸器系の不調を和らげてくれます。

これら二つの気分を解きほぐす精油をブレンドすると、香りがより心地よくなるだけでなく、実験によって呼吸器感染症に対して非常に優れた修復・抗菌機能を発揮することが証明されています。
Emily先生は、感情が健康に与える影響の大きさを強調しています。病気になった際、細菌やウイルスがもたらす直接的な被害だけを見て過剰に薬に頼るのではなく、身体が持つ強力な自己治癒力に目を向けるべきです。では、その自己治癒力はどこから呼び覚ますのでしょうか?

それは二つの場所からです。一つは「脳」です。脳の感情が安定し全身がリラックスすることで、免疫細胞が本来行くべき場所へ行き届くようになります。もう一つは「腹部」、つまり私たちの「消化システム」です。
消化を促進し、お腹の張りを改善したい場合は、パチュリ精油を少量加えます。これら三つの精油を合わせることで、呼吸器へのアプローチだけでなく、脹満感の解消や消化促進にも役立ちます。香りの相性も抜群で、パチュリがスイートオレンジの香りをより際立たせてくれます。

しかし、これだけではまだ「黄金比レシピ」とは呼べません。そこに「カンジダ菌の天敵」とも言われるゼラニウム・ブルボンを微量加えます。すると、このブレンド精油は抗菌・リラックス・消化促進の力を備えるだけでなく、香りの質が飛躍的に高まります。淡いローズの華やかさ、スイートオレンジの甘酸っぱさ、草の爽やかさ、そしてベースノートに微かな土の香りが漂い、心を深く満たしながら、その芳香が長く余韻を残します。

ここで改めて「君臣佐使」という東洋哲学の概念に照らして分析してみましょう。この配合において「君(くん)」となるのはゼラニウム・ブルボンです。全体の配合比率は高くありませんが、循環促進や強力な抗菌作用という主目的を担い、華やかな香りをもたらします。
では、それを誰が補佐するのか。「臣(しん)」の役割を果たすのが真正ラベンダーです。効能を持続させると同時に、自身の抗菌作用を上乗せします。残る二つの精油の中で最良のサポーター「佐(さ)」となるのがパチュリです。パチュリは分子が大きいため、分子の小さい他の精油の揮発を抑えて身体への浸透を緩やかにし、消化促進という新たな機能も加えます。
そして最後に、スイートオレンジが「使(し)」の役割を担います。東洋人に馴染みの深い甘く爽やかなシトラスの香りを添え、ローズの香りと全体を調和させます。まさに君臣佐使が互いに補い合い、高め合っているのです。

引用
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